確定申告ノススメ 実践!帳簿作成編
個人であっても事業として仕事をしていますから、個人事業主も会社と同様、業務上の取引を日々、帳簿に記録していく必要があります。
業務上の取引というのは、「材料を何処から幾つ仕入れて幾つ売り上げた」は勿論ですが、「業務に必要な文房具を何個購入した」「仕事に行く為に電車賃をいくら払った」「打ち合わせに使用した喫茶店でいくら支払ってコーヒーを飲んだ」などもこれに当たります。
確定申告をするためには、その取引の時に発行された領収書やレシートを用いて帳簿を記帳して、一定期間それらを保管しなくてはなりません。
その年の1月1日(事業開始の年なら開始した月)から12月31日までの売り上げや利益を正確に記帳したものを、その申告から7年間、その帳簿に使用した領収書や明細やレシートなどは5年間、保管する義務があります。申告の時に提出するわけではありません。自分で管理をちゃんとしておきましょう。
領収書がもらえない時は自分で都度、出金伝票を作っておいても良いでしょう。
帳簿に記入する事を記帳と言いますが、記帳には「複式簿記」と「単式簿記」の2種類があり、その難易度によって控除額が変わってきます。
複式簿記 …7種類程度の帳簿に記録していく方法で、とても細かく仕訳した帳簿付けが必要となります。そのため手間暇がかかりますが、その分の特典として65万円の青色申告の控除を受けることができます。
単式簿記 …単式簿記は1種類から5種類程度の帳簿に記録していく方法です。収入と支出を1つの科目に絞って記帳するため、非常に単純で会計の知識がなくとも誰でも簡単にできます。ですがその分複式簿記のような特典はなく、青色申告の10万円控除(もしくは白色申告)のみとなります。
ここでは簡単な白色申告のための単式簿記(簡易帳簿)の付け方を解説していきます。
こういった事務に慣れたら複式簿記にして青色申告を目指すのも良いでしょう。
(※青色にする方は事前にその年の3月15日までに税務署にその旨を申し出て許可を得なくてはなりませんから気をつけてください)
白色申告の場合、帳簿の仕様には決まりはありません。
記入しておくべき項目は、支出や収入があった日付と名目、そして金額です。
帳簿の仕様は様々です。
一般的な家計簿を作り変えても、白紙のノートに自分なりに記帳しても構いません。
自分に向いていて続けられるやり方を選んでください。続かなければ意味がありません。
パソコンやスマホアプリで作成する場合は定期的に印刷しておきましょう。
でもどうせなら、申告の時に楽な記帳の仕方が良いでしょう。
金額は勘定科目というお金の用途ごとの科目に振り分けて記帳しておくことで後々の科目ごとの合計額などの計算が楽になります。
さらに、確定申告書に記入する項目と帳簿の勘定科目が同じように並んでいると申告の時のミスも減りますし、日々の記帳から確定申告に対して意識することにもつながります。
例として母さんが利用している帳簿をお見せします。エクセルで作られています。横長なのでスマホには向いてませんが、実際にはこれを元にして使いやすいように設定などを変えて使用しています。
さあ帳簿をつけていきましょう
取引の年月日 何処から、どれくらい、何を購入したのか…
それを勘定科目ごとに振り分けて金額を記入していきます。これを仕訳と言います。
文房具なら「消耗品」。電車賃は「交通費」。
打ち合わせの飲食は「交際費」または科目を自由に設定して「会議費」などでも良いでしょう。
この自由設定の科目は自分の仕事内容に合わせて設定しておくと便利です。
記帳は日々、お金の動きがあれば逐一、領収書などを確認しながら日付と摘要(品名・仕入先・取引先など)を記入してその仕訳します。
そして月末に科目ごとの合計を出して締めておき(別表になっても構いません)、月初めはページを変えて前月の残金や在庫などを改めて記帳してから、また月末(または期日)までのお金の動きを都度記帳して..を繰り返して、12月31日に1年間の科目ごとの合計を出します。これが決算です。
ここからは科目ごとに解説しますので
自分の帳簿に仕訳してみましょう
1 収入
【売上(収入)金額】・・・本業に対しての報酬
【雑収入】・・・事業とは別の収入(副業や講演料など)に対しての報酬
本業とは別にバイトなどで収入を得ている人も居ると思います。
雇用契約に基づいている場合はその収入は給与所得となります。これはこの帳簿ではなく確定申告の時に給与の欄に記入することになります。源泉徴収票などをしっかり貰っておきましょう。
給与は経費を落とすことは出来ませんが65万の控除が出来ます。
※給与支払い額180万円以下だと収入×40%または65万円の大きい方が控除額となります。
それ以上給与所得がある人は経費の申告が可能だったりしてまた数字が変わりますので詳細は別に調べてみてください。
2 売上原価
【仕入額】何かを購入して加工・販売している方はその名称と仕入先や購入した量を正しく記入しておきましょう。月末・期末には棚卸を行なって在庫の残も記帳しましょう。
※技術料などで収入を得ている方はここは関係ないかと思います。母さんは使ってない科目です。
3 主な経費
【給料賃金】人を雇ってお給料を払っている場合、配偶者など家族でも給料を払っているなら記帳します
【外注工賃】自分が請け負った仕事のために外部に頼んだ場合の経費のことです
【減価償却費】通常は10万円以上の品物を購入した時はその品物の使用年数ごとに経費として清算していきます。帳簿では年間の償却費を月割りして毎月記帳しておきます。日付は月末にまとめてで構いません。
【貸倒金】これは本当なら収入になっていたはずのものが何かの理由で払われなかった時に記帳します。相手に貸したまま返却されなかった負債だと考えてください。一般的な簿記だと、売掛金、未収入金、受取手形、貸付金、前渡金として記帳されていたものが回収できない!となった時に名称が貸倒金となって経費として扱うわけです。
個人で細々とやっているうちは縁が薄い科目だと思います。起きて欲しくはないけれどギャラの未払いが発生した時などは使うかもしれませんね。
【地代家賃】土地や建物を借りる時に支払う賃借料のことです。(ローンは当てはまりません。)仕事に使う倉庫や事務所などの家賃が当てはまります。
また、自宅を事業所としている方も多いでしょう。その場合は自宅スペース全体のうちどれくらいを仕事に使っているか?をご自身なりに計算してください。だいたい30%かな?とか、いや部屋の半分は事業の荷物で埋まってるなぁ、とか。そして家賃や管理費などの使用ぶんを計算して記帳しましょう。
スペースに区切りを設けてない場合は1日のうち自宅で仕事をどれくらいしているか?を割り出して按分しても構いません。
※この事業割合と家事割合を考えて全体の何割かを按分で経費計上するやり方(家事按分といいます)は他の科目でも大いに使用されますので憶えておきましょう。
敷金、礼金等も金額が20万円未満の場合は地代家賃として扱います。
金額が20万円以上の場合は先に繰延資産として資産計上しておいて、5年以内の期間で償却して処理します。
いずれ返ってくる場合もひとまず資産として計上しておいて、返ってきた敷金からクリーニング費用などが引かれていたら、その金額を経費にします。
【利子割引料】これは事業の為の借り入れ金の利息のことです。
事業の為に銀行や消費者金融から借り入れをした際の利子や、親戚や知人(生計を共にしていないことが条件)などから借り入れをした際の利子。
他に、仕事以外でも使用する機会がある自動車ローンや、自宅兼事務所の住宅ローンも家事按分で計上出来ます。リボ払いや分割払いの手数料も同様です。
4 その他の経費
ここから更に細かな科目になります。主な経費よりも金額や支払日にばらつきがあるものが纏められていますので、記帳の時は日付や金額を正しく記入することが大切です。
この科目は名称は見慣れなくても仕事の中でなにかしら登場する支払いばかりですから、だいたいの科目の意味を理解しておきましょう。
【租税公課】税金や組合費などのことですが、所得税や住民税は当てはまりません。事業の為に支払ったものに限られるからです。
主に、個人事業税、固定資産税、自動車税、収入印紙代、商工会議所会費、組合などの会費などがあります。家事消費もある税金については按分します。
【荷造運賃】商品を発送する際の送料のことです。
車で運んだ時のガソリン代や運転やトラックなどを頼んだ場合の外部委託費用、
海外や飛行機に乗せる際の検査手数料などの他、ダンボール箱、包装紙、緩衝材、ガムテープ、ひも等の荷造りのために購入したものも荷造り運賃です。
郵便小包や書留、宅配便やレターパック、船舶、鉄道、航空機などの輸送費などももちろん該当します。
※手紙やハガキは後述の通信費です。
【水道光熱費】これは家計簿でもおなじみですね。水道代、電気代、ガス代、です。
これも自宅兼事務所の場合は家事按分を使って計上します。
【旅費交通費】バス電車タクシーなどの交通費や、出張の際の航空費や宿泊費、従業員の通勤手当などが該当します。SuicaやPASMOのような交通系電子マネーについては利用履歴を紙で出力して持っておきましょう。
※新幹線のグリーン料金は経費に出来ません。飛行機のファーストクラスやビジネスクラスについても税務署から指摘を受けやすいそうですが仕事に必須かどうかを説明して交渉することになります。
【通信費】主に電話代と郵便代のことです。
電話やインターネットにかかる費用(回線などの開設工事費、固定電話・携帯電話の利用料金、通信料金、プロバイダ料、回線使用料など)、郵便料金である切手代、ハガキ代などが当てはまります。
【広告宣伝費】その名の通り宣伝のための広告などにかかる費用のことです。
ポスターやチラシ、ダイレクトメール、名刺などの印刷代金、看板やホームページ、やアプリなどの制作費や運営費、新聞や雑誌、ネット、地元のクーポン誌などに広告を出す広告料、手数料なども該当します。
※広告には求人募集なども含まれています。
【接待交際費】事業を円滑に行うための取引先との飲食や、お歳暮などの費用です。
他にも、お世話になったことへの謝礼金、送迎のタクシー代、手土産や差し入れ、冠婚葬祭の祝い金・御香料、接待ゴルフなども当てはまります。
その相手と仕事上の接点があるかどうかではなく、将来的なことも含めて仕事の為になっているなら経費とみなされます。
非常に該当範囲が広くなりますし趣味と仕事の境目の判断が難しい科目ですから、税務署にいつでも説明できるように記帳だけでなく領収書の余白などにも、誰と?どんな目的で使った費用なのか?が、わかるようにメモしておくと良いでしょう。
【損害保険料】事業に関わる損害保険にかかる費用です。
事務所の火災保険・地震保険、事務所や店の商品の保険だけでなく、事業者本人の賠償責任保険なども含まれる場合があります。車や自宅兼事務所などはほかと同様に家事按分を使って計上します。
【修繕費】仕事に使用している物品の修理費用です。
パソコンの修理、車の修理、事務所の窓や壁の修繕・リフォーム、業者に依頼したメンテナンス料金。また20万円以下なら改良についても修繕費が適用できます。
【消耗品費】机やパソコンから、プリンターにコピー用紙、お茶や洗剤、便座カバーや文房具等々、すっぱり言ってしまうと10万円未満の備品は、ほぼ全てが消耗品費です。ちょっと珍しいものだとクラウドサービスの利用料もこの科目に仕訳できます。
ただし中には他の科目にも仕訳することが出来る品物が多くあります。
例えば、封筒は通信費とも言えますし、電球は修繕費、ガソリン代は交通費にする人も多いです。
基本的には消耗品でも別の科目でもどちらでも構いませんが、同じ品物なのに科目が都度変わる、なんて事にならないように気をつけましょう。
※10万円を超える品物については減価償却が必要になります。
【福利厚生費】
福利厚生費とは、従業員の生活向上、労働環境改善のために使う費用のことです。慰安旅行費や忘年会の飲食費、通勤費もこれに含まれます。法人でなくても、従業員を雇用している個人事業主も利用できます。
ただし、独りで働いている場合や家族従業員のみの場合は福利厚生費で処理できるものはありません。
また、福利厚生費と見なされるには、すべての従業員が利用できる平等性があることや、金額が常識の範囲に収まっていること等、一定の条件を満たしている必要があるので気をつけましょう。
その他の経費はここにあるだけではなく、
その業種特有の科目も加えて構いません
母さんの場合は【研究費】として担当作品の原作購入や関連作品の視聴や閲覧にかかった経費を仕訳しています。フリー音源を購入した年は【音源購入費】という科目を作ることもあります。
他にもダンサーやメイクさん小道具さんの【被服装飾品費】、監督やプロデューサーの【会議費】など、仕事の内容によって様々な科目があって良いのです。
大切なのは同じような購入物品を気まぐれに仕訳せず、自分なりの約束事を決めて前回仕訳した科目と同じ科目に仕訳する事です。
そして最後に【雑費】という、どの科目にも属さない支出があった時に仕訳する科目があります。
そして、地代家賃の欄でも説明していますが今一度、
家事按分についてお話ししておきましょう。
個人で仕事をしていると購入したものの中には、家庭(私用)でも使うものも出てくるかと思います。
この物品は業務用か?それともプライベートか?
ひとつのものでも、使用目的や使用頻度などで、例えば7割がたは仕事に使用しているとなればその値段の7割を記帳すれば良いのです。もしも家計簿をつけているなら残りの3割は家計簿に記帳されることになります。
その使用割合などは品物によって様々でしょうから、その領収書やレシートに都度メモしておくと安心です。
どうでしょう?
自分の帳簿は出来上がりましたか?
レシートが見つからないとか、経費として扱って良いのか判らない買い物があるとか、問題点も数多く抱えている人も居るでしょう。
映像業界は、税務どころか経理も全く素人で一人で働いている個人事業主ばかりです。みんな最初は判らない事だらけのまま、誰かから教わったり自分で調べたり、時には漏れや不備があったりしながら、なんとかやっているわけです。
完璧じゃなくても大丈夫ですから、書き込める経費を思いつく限り記帳することを、まず始めてみてください。
帳簿は慣れです!頑張りましょう